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コロナ禍で専門学校でオンライン授業を行ってみてのメリット・デメリット忘備録【2020.7.1】

投稿日 2020-07-01 / 最終更新日 2022-06-01

都内の専門学校で非常勤講師として週1回(前期のみ)UIデザインの授業を行っています。
Google Meetを利用した専門学校でのオンライン配信授業を3回行ってみての、メリット・デメリットを忘備録的にまとめました。

※ただし学校側との契約守秘義務違反にあたると思われる事柄については書いておりません。

オンライン授業の環境

  1. 学生には個別にPCの支給(貸出)があり、最新版のAdobe CCが入っている
  2. 講師、学生ともにオンライン授業専用の専用アドレスが個別に発行されており、プライベートには十分な配慮がなされている
  3. オンライン授業は講師のみが喋る、学生はビデオも音声もオフ

授業開始前の不安

私の授業では Photoshop/Illustrator を使いながら基本的なツールの使い方・機能を知ってもらい、その後架空のゲームを想定したUIデザインを個々に制作してもらいます。

そのため授業時間のうち約7~8割が個人制作時間となり、私は一人一人回りながら個別にチェック。
例えば文字詰めした方がいいとか、このボタン同士をきっちり揃えよう、視認性を上げるために色を変えてみよう、といった具体的な部分を助言していきます。

また学生側から「こういうイメージにしたいけど何をいれたら良いと思うか」「こういうのを作りたいけどどういう方法があるか」等の質問が出たときに、内容や方向性に応じて全体で共有したり個別にこれはどう?といったことを応えていきます。

そのためオンライン授業開始にあたっては主に以下の点が不安でした。

  1. 学生がどんな手順で制作しているのかがわからないので、質問が出ない限りはアドバイスが難しい
  2. 今説明したことを理解できているのかが確認できない
  3. わからないことやわからないときに「わからない」と言えないのではないか?

私自身まったく新しい分野や業界の仕事をするときに痛感しますが、本当に何も知らない・わからない時は「そもそも自分自身が何がわからないのかがわからない」というのがあります。私が教える内容はまず PhotoshopやIllustratorの使い方の基本的な部分を含めているので、慣れてもらうこと、わからないまま進まないように見ることも大きな目的と考えています。

各自の作業手順を見ていれば「ここがわからないのか」「こうしたいんだろうな」と察せるのですが、一方的に配信する形だとどんな手順で制作しているのかがこちらにはわかりません。

加えて、明らかにわかっていない場合にも「わかりました!」と答える人は意外と多い、と過去4年(2020年現在5年目)感じました。

「まずツールを覚える」この最初の時点でつまずくとその先がわからなくなってしまうこと、理解スピードは本当に人それぞれなので、最初が肝心です。

一体どう作っているのか?
それが見えない状態で一人一人理解ある授業を進められるか?が心配な部分でした。

オンラインのメリット

①“納期”と“成果”が明快

最も大きなメリットだったのはこれです。

専門学校は就職(または将来的にフリーランス)を目指す人が多いため、時間の使い方や納期という概念を身につけてもらうことも重要と考えています。
しかしながら高校を卒業してすぐに専門学校に入る人も多いため、高校までの授業延長になりがちな側面もあると感じていました。

例えば、課題=案件と考えて欲しいのですが(最初に伝えますが)、宿題と捉えている場合が多いこと。宿題なので「締め切りだよ」と言った日に出せないこと、提出を忘れるということに危機感が薄いです。こういうのは何度も繰り返して体感として身につけてもらうほかありません。

これは学校の方針が凄いのですが、授業時間内に授業で作ったものを提出させるというおかげで、作業風景が一切わからなくとも授業時間内に理解したかしないかどのくらいのスピードで作ることができているかが課題を見れば明らかだとわかりました。

私自身フリーランスなので、納期と(先方が求める)クオリティが最重要と考えます。なので授業態度よりも「納期までにお金を取れるだけのクオリティに仕上がっているか」が一番の評価基準になります。
納期までに仕上げられなければ仕事の信頼は得られないし、食べていくことはできないからです。

ですので

「限られた時間内でどこまで作れるか」「必ずこの時間までに出さなくてはいけない」という感覚を養うにはとても良いと感じました。

②手元でしっかり手順が見える

オフライン授業では「ホワイドボードに教師用のPC画面を映して説明」をしておりました。しかしこれは当然後ろの席は見えにくいです(前に座るか後ろに座るかは本人の授業への本気度も関係しますが)。
Google Meetsで画面を共有することで、このアプリのどれを使ってどう作っているかがハッキリわかるようになったと思います。

私自身Photoshopのツールのすべての名称を知っている訳ではない+名称を知っていても初めての触りで説明するには「一番上のバーに表示されている四角が3つずつ計9個並んだ部分を…」とか言わず、ポインタで示して「ここね」といえば済みます。

←こういうところは拡大して見せることができないので、後ろの方では見えにくいですよね。

また言語が違う場合でもPhotoshop画面は共通なので、どこを触ればよいのかが一発でわかります。世界的ツールは偉大です。

③質問がしやすいのかも?

配信慣れしている世代だからなのか、授業中にチャットで「ここはどういう意味」「こうなってしまうけどどうしたら」「画面見えてないです」などがリアルタイムで飛んできます。こちらは喋りまたはチャットで返し、全員にその話題が同時に共有されるのが良いと思いました。

ただしデメリットでもあり、前述したとおり「本人がなにがわからないかがわからない」場合は質問の仕方自体がわからないだろうということ。今の状態だと「本当に『わからない』と感じていることを質問できているのか」はわからないですね…。

それ以外ではまったく反応しない・できない・ないので、手応え(今の説明だとわかりにくかったかな…?)に不安を感じるときはあります。

デメリット

①WiFi環境

2回目の授業で私がやらかしてしまったのですが、配信・受信ともに双方のネット環境がとても大切です。

普段使っているデスクトップPC(有線)は案件情報など原則他の人には見えてはいけないものがあるので、テストも初回もノートPC(無線)で配信していました。
しかし2回目はミーティング画面にログインできない状態になり(ずっとグルグルローディング)、やむなく通常のPCの方から配信を行いました。

学生側でも、トラブルがあり再起動しなおす、ということは数回あります。

家にWiFi環境がなく、スマートフォンのギガを使い切ったという話題も一時期言われましたが、どちらにも安定したインターネット環境が必須です。

②家庭環境に左右される

①はネット環境面でしたが、授業も会議も配信・受信ともに家庭の状態によって集中力が大きく左右されると痛感しています。
集中できる環境にあるか、喋り続けていても大丈夫か、など。

幸いまだオンライン授業とはバッティングしてませんが、我が家は夫が24時間の交代制(ほぼランダム)シフトなので、授業を行っている隣の部屋で泊まり勤務明けで寝ている場合もあります。

家の中に小さなお子さんがいたりペットがいたり、他にもオンラインで授業や会議をする家族がいると、同時刻にオンライン〇〇をするのは結構ハードルが高いかもしれません(ちなみに私は念のための簡易防音室を押し入れに作りました)。回線問題も含め。

③誰かと同じ空間を過ごさない、顔を見ない、ということ

案件の受注ややりとりをほぼメールで済ませている私にとって、仕事においては「会ってこそ意義がある」「会えばできる」が重要なことであるとは考えておりません。もちろんそうではない、会うことこそ重要な仕事もありますが、制作は成果によって次に仕事が来るか来ないかが決まりますし、会わなくても十分に互いの信頼関係を作れます。未だに一度も会わず取引している方も少なくありません。

技術を教える・教わるという目的を考えたら、講師対学生は対面が重要でもないとも思います。

ですが専門学校は同じ夢や方向性を持った人が集まる場なので友達も作りやすい・将来同じ業界で働く人もいる、小中高までとは違った関係性のできる学校です。

私自身は専門授業で生涯付き合うであろう親友、いつ会っても仕事も含めた色んな話ができる同志ができました。
友人がどんなものをどんな姿勢で作っているか。互いに教え合ったり、情報交換したり、誰がどんな姿勢で制作に向き合っているのかが見えるので向上心もあがる・刺激を受けることも多々ありました。

が、もしもずっとオンラインだったら。
それまでとはまったく異なる「ライバルであり友だち」はまったく新しい形で作られていくのかもしれません。
…改めて、学生たちは私たちのまったく知らない世界を生きていくのだなあと感じました。

まとめ

技術・制作・目的面でいえば、「仕事」あるいは将来的に仕事にすることを学ぶ専門学校では、オンラインは今のところメリットの方が大きい気はします。
仕事は過程より結果が重要ですし、専門学校は基本「元々そういう技術を学ぶ意欲もあるし将来そういう方向を目指しているからです。

ただしこれが義務教育の場合は、全国的にオンラインにしていくのは相当にハードルが高いんじゃかなというのが率直な感想です。

小学校低学年などは学力や知識よりも「まず学び方を学ぶ」「学力差や意欲差もできる限り開かないようにする」ということが最重要だと思いますし「一人で集中できる」ことをまだ身につけている人はごく一部でしょう。

一方で、オンライン授業で全国どこでも同じ授業が受けられるということになれば、少なくとも生まれた地域によっての教育格差は減らせるのかもしれません。高校や大学へ通うのに実家を出て生活費の心配をして…というのはなくせる可能性もあるのかな…とは思いました。回線や家庭環境の差が相当にハードルが高いとは思いますが…。

専門学校に来る方々はネットで物凄く上手な人たちの絵や作品やデザインも見ながら、それでもゲームやアニメなどの業界で働きたい、自分もその一員になりたいという熱量のある人たちです。
SNSで出会った「直接会ったことはない」人たちとも交流したり切磋琢磨したりができるように、オンラインでの繋がりがまた新たな形を生み繋がるかもしれません。
学校や教える側は、環境によって生じる学生側の不利益がなるべく生じないように行えることを行っていくのみだな、と感じました。

以上、専門学校の非常勤講師として3回オンライン授業を行った一人としての忘備録でした!