投稿日 2019-04-17 / 最終更新日 2021-01-02
こんにちは、樹咲です。
遅ればせながら…祝!宇宙兄弟35巻発売!
1巻からの想いのピースや“約束”が果たされた素敵な巻でした。
私は読み終わった後、こんな感想を呟いています。
そう。宇宙兄弟を読んでいると、歳を取ることにワクワクしてきます。
少し言い方を変えると、「月日が経つことにワクワク」します。
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先日ブラックホールという、「理論上存在されているとされているけれど、誰も見たことがない、実証されていなかったもの」が撮影され、その存在が確かなものとされました。
アインシュタインが100年前に提唱していた理論が、私たちの代で遂に「存在する」と証明されたのです。
すごくない?
人間、運が良くても健康でも、100歳生きる人はそういないでしょう。
しかし科学は繋がり、知恵や技術が蓄積し、(戦争がなくなった訳ではありませんが)各国で「観測しようぜ!」と協力体制がとれる時代になり、地球サイズの望遠鏡を作って撮影できたのです。
アツいですね!
詳しい解説はぜひこちらをご覧ください。
史上初、ブラックホールの撮影に成功 — 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る|ニュース – 研究成果|国立天文台(NAOJ)
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『宇宙兄弟』の世界でも、人がリアルに生き、蓄積されていく技術や想いがあります。
宇宙開発のそれぞれの出来事や(月の洞窟の話とか!)、日本の宇宙開発が「こうなったら良いな」はもちろん、ALSの認知、確実に進む研究など、現実とリンクして感じられる部分もたくさんありますね。
ブラックホール凄い!とか、はやぶさ2凄い!とか、過去の技術や知識が蓄積され積み重なって、今の人々が時間や技術を注ぎ込んで現実のものとなったことがたくさんあります。
過去生きた人々からバトンを受け取って、今できる“最高”で素晴らしい結果を出し、そこからさらに未来に繋がっていく。
“人類初”“世界初”。そういう場面場面に居合わせることができる幸せを、この数年とても実感します。
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35巻では、金子博士が発見した小惑星“シャロン”の詳細な姿を見たいと思ったシャロンと、“シャロン”を見るための月面天文台を作ると約束したムッタの長い長い約束が遂に果たされました。
「約束」が、明日をつくる。
通常版の帯に書かれているこのキャッチコピーが、読み終わった後じわりじわりと染み入ってきました。
シャロンが夢を見、ムッタが約束し。そこから月面天文台ができるまでの間にも、実際に建設にあたったジョーカーズ、計画を決断したNASA、計画を進めたモリソン博士やその夢を託した天文学者たち、部品を作り上げたスタッフなどなど、描かれない目に見えない、しかし確かにいる大勢の想いや願いや技術が“シャロン月面天文台”には詰まっています。
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『宇宙兄弟』は基本的に、登場人物の年齢が高めの作品です。
“年齢”という数字だけをみれば、中年から老人たちが物語のメインにいる作品だと言えると思います。
中年や老人、という響きはどうにもこうにもネガティブに感じてしまいがちですが、登場人物たちには読者たちが知らない時間を確実に積み重ね、その努力や失敗や成功や、彼らが感じてきた様々な感情、重ねてきた人生が厚みとなって描かれています。
誰もが真っすぐに、真摯に日々を生きてきて、そして生きています。
物語に登場するまでに、彼ら彼女らには読者の知らない人生が二つも三つも挟まっています。
学生時代とか、前職とか、結婚して家族と過ごした時間とか。
回想で触れられるのは膨大な時間のほんの一時ですが、それでも物語の外に“きっとこんな時間を送ってきたんだろうな”と想像できるほど、彼らはリアルです。
そして、ブライアンやリック、金子博士、ヤンじいの訓練中に事故死したパイロットたちなど、既に故人となられた人物たちの想いも、彼らはしっかり背負って生きています。
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“史上初””人類初”を何度も発表できる楽しさ。
35巻には新キャラクターの、NASAのエルドン長官が登場しましたが、彼はNASAで働くのが本当に楽しい、と言い切ります。
それは“史上初”“人類初”というバカでかい出来事を何度も発表できるから。
またいいニュースを淀みなく話せる彼の“エルドン節”は、多くの宇宙飛行士や技術者たちを“ヒーロー”にしてきたことでしょう。
ロシアとともに宇宙開発の先陣を走ってきたアメリカ、NASA。
彼もまた、蓄積された想いや願いを受け取り、次世代へと繋いでいく一人なのでしょうね。
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さて、私は小山先生が描かれる泣き顔(主に嬉し泣き)の表情が好きなんですが、それ以外にも皴の描き方が好きです。
いわゆる漫画記号の画一的な描かれ方ではなく、その人その人のその時の感情や人生が見える皴です。
すっごく泣くのを我慢している時の、熱いものがこみあげてしまって仕方ない時の、鼻の下がぐぐっと伸びてほうれい線が濃く出るムッちゃんの嬉し泣きの顔とか。
シャロンはたくさん笑ってきたから目じりにたくさん皴があるんだろうな、とか。
ビンスさんは表情を変えず“淡々と”やるべきことをこなしてきたから皴が少ないとか(皴についてはピコにも言われていましたね)。
目の下に涙袋のような皴のある人たちは、たくさんたくさん働いてきた人たちなんだろうなとか。
そういうものが見えるような、それぞれに刻まれている皴が、なんだかとってもかっこよく誇らしく感じるのです。
冒頭で「宇宙兄弟を読んでいると、歳を取ることにワクワクする」、と書きました。
自分が好きで仕方のないことや、目指すもの、するべきこと。
目の前のことにしっかり取り組んで歳を重ねてきた人たちの姿がそこにあるからです。
それぞれの人生の蓄積がそこにあるからです。
皆が、自分を信じて、誰かを信じて歩んでいるからです。
35巻には好きなシーンが本当にたくさんあるんですが、読み返したときに何度も何度も私に“キタ”のは福田さんでした。
かつて宇宙飛行士を目指したこと。
ロケット作りに夢中になり、離婚を経験していること。
もう一度宇宙を目指したこと。
年齢を超えて、宇宙を目指す友人ができたこと。
再びロケット作りの現場に入り、宇宙開発に携わり続ける姿。
ソユーズに、ムッちゃんの無事を願う姿。
家族に関して、うまくいかなかったこともあったと伺えます。
一番なりたかった宇宙飛行士は叶いませんでした。
ただ、“宇宙”に真摯に、真っすぐに、ブレずに歩み続けた福田さんが、ムッタの無事をソユーズに願うシーンは、たまらなくイイのです。
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読書会で一番好きなセリフの話になったとき、私の一番は変わらず「人生は短いんだ。テンションのあがらねえことにパワー使っている場合じゃねえ」でした。
その時「突き抜けたい」と言いましたが、それは有名になるとか大きいことをしたいという意味ではなく「自分が好きなことややりたいこと、譲れないこと、その時の自分の感情に正直に進みたい」という感覚です。
私自身やることなすこと反対されたり、狭い小さな町で星を見ながら「空は繋がっているのに」なんてことを考えていたので、ピコとビンス、そしてリックの境遇にはとても感じ入るところがあります。
だから、その時動いた感情に正直にいたい、動きたいと思い、可能な限り実行をしています。
基本的には「自分に正直に」なので自分のためであることが多いですが「テンションのあがること」にパワーを使ってきた時間には、後悔は驚くほど少ない。
ムッちゃんたちのように“人類にとって”みたいな大きな仕事ではないけれど。
それでも日々の自分の仕事が、行動したことが、書いたことが、誰かにとって意味のあることになっていたら、それはとても素敵ですね。
「あの仕事良かったよ」とか「あの文章とても励まされた」とかそういう言葉は、きっと目の前のことや自分の感情に真っすぐに向き合った“結果”として受け取ることができるもの。そう思います。
自分の感情や、目の前のことや人に真摯に誠実に向き合って生きていったら。
10年後、20年後に自分の顔に刻まれた皴を見て「いい顔だ、いい人生だ」と言えるでしょう。
私も彼らのように、良い皴が刻める人生でありたい。
そんな風に思いながら、今日も目の前のこと、自分の感情を大切に一日を過ごそうと思うのです。
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©小山宙哉/講談社
※本連載は『宇宙兄弟』原作画像の掲載許可を得ております。
間がとても空いてしまいました、すみません!
35巻読書会、とっても楽しく、また『宇宙兄弟』好きな方々の熱量に触れ「大好きな作品だな」と再認識いたしました。
公式サイトで読書会レポを書かせていただいているので、よろしければあわせてご覧ください^^
※宇宙関係には正確さを心がけておりますが、万が一間違いがございましたらご指摘いただけますと幸いです。
☆宇宙兄弟メシもどうぞよろしくお願いいたします☆
宇宙兄弟メシマンガ『宇宙兄弟』に登場するごはんの場面をふりかえりながら、自宅で作れるレシピを紹介♪ 分量や手順は写真で分かりやすく説明cakes.mu