Tree`s Garden -Riyoko Kisaki-

デザイン・WEB・漫画制作・ゲーム関連・ナレーターなどで活動する個人事業主・樹咲リヨコのサイトです

Tripnote

Tripnote

エンタメ コラム

【エンタメ】ワンピース歌舞伎、というエンタテイメント

投稿日 2017-11-18 / 最終更新日 2021-01-02

大人気漫画ワンピースと歌舞伎の融合、『ワンピース歌舞伎』が大人気再演中だ。(追記:本記事は2017年11月の新橋演舞場公演時に記載したものである。2018年4月現在大阪松竹座で公演、5月には名古屋御園座で公演予定である。

私は初演の時にこの『ワンピース歌舞伎』の魅力にはまってしまい、今回の再演は計5回訪れ、つい先日“ワンピース歌舞伎納め”をしてきた。
(本当は仕事で絶対無理そうな最終週以外毎週1回計7回申し込んでいたが結局2回行かれなかったのである…)

初演を観に行ったきっかけは、市川猿之助さんである。
私は俳優の佐々木蔵之介さんのファンなのだが、彼と仲のいい猿之助さん(当時亀治郎さん)に興味を持ち、澤瀉屋歌舞伎をぽつぽつと観に行き始め「歌舞伎って面白いなあ」と思い始めた頃にこのコラボレーションが発表された。

発表当時はどちらのファンも「ワンピースで歌舞伎?!」という反応だった記憶がある。

〇〇の実写化!舞台化!となると私自身は割と「一体どう表現するのか」という方に興味を持つ。
それがイメージとかけ離れていればいる程、どう料理されるのかに興味津々となる。

ワンピースといえば海賊、海賊といえば海。
ルフィといえばゴム人間で、手も足も「みょーーーーーん!」と伸びまくる。
船は?ゴムの表現は?
他にも奇抜な髪型やファッション、様々な種族等など、CGも使えない生の舞台上で一体どんな風にやるつもりなのだろう…と想像がまったくできない状態だった。

歌舞伎の世界とどう融合するのだろう、という興味と楽しみで「とりあえず一度は観よう!」と出かけた。

とはいえ世界中に多くのファンを持つ『ワンピース』である。
キャラクターのイメージは大丈夫だろうか?という不安も当然ながら持つ。しかし。

そんな心配は全く無用だった。

観終わった後の高揚感が凄かった。
見事に、『ワンピース歌舞伎』という世界にどっぷりと飲み込まれてしまった。
あまりにも楽しすぎて、その場ですぐさま次のチケットを買った程である。その時にはもう評判が評判を呼んでいて大人気となっており、買える日にちが本当に少なく1等席がわずかにあるのみであった。

『ああ、もっとチケットを取っておけばよかった。まだまだ観たかった…!』

その後悔から、今回は何度も観るぞ!となっての5回だった。

初演でも再演でも、原作ファンで初めての歌舞伎を観に来た人、いつも歌舞伎を観ているけれどワンピースはさっぱりな人、様々な人が客席にいる。
ワンピース歌舞伎では、小学生くらいの小さなお子さんとお父さんやお母さん、という家族連れも多い。

どちらか片方しか知らなかった人も歓声を上げて、笑顔で、本当に楽しそうに過ごして帰る。凄いね、楽しいね!と子どもがニコニコしている。
「本物だ!」と驚いているファンがいたり、「私ワンピース知らないけれど楽しいわ~!」ときゃっきゃとしているマダムもいる。

ワンピースを読んだことがなくても、歌舞伎を観たことがなくても、観た人が「楽しかった!」と笑顔で演舞場を後にする。

こんなに素晴らしい光景があるだろうか。

友情や家族の絆、冒険心や誰かを想う気持ちなど『ワンピース』という作品そのものが持つ普遍性が、誰の心にも響いて届くのだと思う。
それが歌舞伎ならではの演出と相まって、極上のエンタテイメントに仕上がっているのだ。

二幕の本水、そしてファーファータイムと呼ばれる二幕のラストシーンでは、ゆずの「TETOTE」に乗せて演者が歌い踊る時間となる。観客総立ちでまるでライブだ。
今回の再演では「スーパータンバリン」という観客皆でシャンシャン鳴らして楽しめてしまうアイテムまであって、あの快感を体験してしまうと、本当に「ヤバイ」

キャラクターの再現性の高さにも注目だ。
私が本当に大好きで仕方ないのは坂東巳之助さん演じるボン・クレー。一度観たら忘れないこのキャラクター、表情も、声も、動きも『本物か!?』と思う完璧さである。
ゾロとサンジ(中村隼人さん)は登場シーンは少ないものの、2人の関係性を舞台上(と休憩中の映像)でめいっぱい表現してくださっており、知っている人は思わずニヤニヤしてしまう。ちなみにゾロはボン・クレーと同じ方なのである。

また歌舞伎世界に合うようアレンジされた衣装に身を包み、舞台上で圧倒的存在感のある市川右團次さん演じる白ひげは、大家族の”親父”である貫禄と深い愛で観客を虜にし、勇ましい姿で戦う。最後のシーンでは、息子たちと一緒に「親父殿!」と叫びたくなってしまうだろう。

ルフィは、終始本当に愛したくなる存在だ。

今回は初日に猿之助さんのルフィも拝見することができたのだが、猿之助さんのルフィは「皆、行くぞー!」という兄貴のようなルフィ。座長であり、普段から皆を引っ張る存在であることが見えるような、そんな頼もしいルフィだ。
対して右近さんのルフィは、皆と一緒にいられて嬉しいな~と後ろから皆の姿をニコニコ眺めているような弟っぽさを感じる。
ルフィは何度も戦い傷つき、悲しみ、立ち上がる。彼の行動には裏がなく、いつでも真っすぐだ。
そんなルフィの姿と行動に、皆が心の中で「頑張れ」と声を掛ける。

他にも強烈で魅力的なキャラクターに溢れ、一人一人丁寧に紹介したくなるほど、皆が縦横無尽に演舞場を動き回る。ワンピースのキャラクターとそれぞれの役者さんの魅力が混ざり合って、誰も彼も大好きになってしまう。

今回の再演では、市川猿之助さん主演の回と、尾上右近さんを主演とした若手中心の回が用意されていた。
猿之助さんは怪我をされ10日以降の出演ができなくなり復帰時期は未定だが、彼は開演前の番宣でこんなことを言っている。

「僕がいなくなったら出来なくなってしまう、それじゃダメ。ワンピース歌舞伎を古典にしたい」

奇しくも今回猿之助さんの出演が難しくなり、若手の回に主役を演じている右近さんが猿之助さんの回も主役をやることとなった。
その重責は、相当なものだったではないだろうかと想像する。

猿之助さん回も右近さんが演じることになり、右近さんがやる筈だったキャラクターを他の方がカバーする。
ただの一回も休むことなく、予定通りに公演は行われている。
観に行かれた方々の感想は文字だけでも伝わるほど本当に本当に「楽しかった」で溢れている。

「観に来た人に全力で楽しんでもらいたい」と出演者の方々は勿論、スタッフや関係者の皆さんが一丸となって毎回の公演にのぞんでくださっているからではないだろうか、と思う。

猿之助さんが作り上げてきたものがどんどんと進化を遂げ、たくさんの人の熱意を巻き込み、猿之助さんのルフィ、右近さんのルフィ、それぞれのルフィが皆に愛されていく。
それは、ワンピース歌舞伎が古典への道へ一歩進んだということではないだろうか、と思う。

東京での再演は11月25日で千秋楽だ。
しかし、これからも、きっと何度も公演されるだろうと確信している。

「そんなコラボレーションが?」と誰もがビックリした2つのエンタテイメントが見事に融合したのである。
歌舞伎と漫画という間に架かったこの橋を、あなたもぜひ渡ってみて欲しい。

最後に。市川猿之助さんのご快癒を、心よりお祈り申し上げます。

東京公演は2017年11月25日で終了。大阪松竹座では2018年4月1日(日)~25日(水)、名古屋の御園座では2018年5月3日(木・祝)~27日(日)の予定。
まだまだ『ワンピース歌舞伎』を楽しむチャンス!

【おまけ】
演舞場で販売しているルフィの歌舞伎弁当。”骨付き肉”にワンピースなこだわりを感じる。サクッとしていて大変美味でした。