Tree`s Garden -Riyoko Kisaki-

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コラム 宇宙兄弟

第5回『ふかぼり!宇宙兄弟~魅力的なキャラクターたち~』

投稿日 2018-06-30 / 最終更新日 2021-01-02

こんにちは、樹咲です。

6月も終わり…ということは既に半年が終了ですね。
1ヵ月が本当に早くて、関東ではいつの間にか梅雨が明けており、蒸し暑~い夏の到来。熱中症など十分お気をつけてお過ごしください。

さてさて、本日は宇宙兄弟のキャラクターたちについてふかぼりたいと思います。

『宇宙兄弟』のキャラクターたち。

私は公式サイトでキャラクター紹介を担当させていただいているのですが、いわゆる“出番”が数ページしかないキャラクターでも筆が止まらず、気が付けばWordを3~4ページ埋めていたりします。

「あれ、こんな量になった?!」と自分でもビックリします(笑)。

何度も言ったり呟いたり書いたりしていますが、『宇宙兄弟』のキャラクターって誰も彼もが本当に魅力的なんですよね。そして強く読者の印象に残る。
だから数ページしか登場していなくても、本編に物凄く大きく絡んでいなくても、初登場が遅くても、すんなりとキャラクターが入ってくるし覚えてしまうんですよね。

キャラクターが“走る”。

「登場人物たちが勝手に動き回るんですよ~」

…という言葉、漫画家や作家の先生から聞いたことはありませんか?
世間で大ヒットと言われる作品って、よく原作者の先生が「キャラが勝手に動いている」と仰いますよね。

え、キャラが勝手に動くってどういうこと?

「このキャラはこういう性格」「このキャラはこういう容姿」という以外にも、作家の先生方は意識して、または無意識にこんなことを“知って”いるということなんだろうな…今回はそんなコラムです。

私は先日コルクさんでFFS診断というものを受けさせていただいたのですが、FFSとは…

FFS(Five Factors & Stress)理論とは、「ストレスと性格」の研究に おいて開発されたものです。人が恣意的、無意識的に考え、行動する パターンを5因子で計量し、ストレス値においてポジティブな反応か、 ネガティブな反応か分析します。その結果、その人が保有している潜在的な強みが客観的に分かります。

というものだそうです。
今の状態の「その人」がどんな考え方をし行動し、業務はどういった考え方で進めるのか、ストレスが強い状況ではどういう反応をするのかが客観的にわかるものということで、組織やチームを形成する際に「組み合わせ」て力を発揮したり成長できる手助けとなるもの。

「あなたはこういう人です!」という占いや心理テストを受け、「あ、そうそう自分ってこういう人!」という経験をしたことがある方は多いと思うのですが、このFFS診断で面白いなと思ったのは、“強いストレス状態にある時に”自分がどういう行動を取りやすいか分析されているところでした。

・私、怒っているよ!と表情や言葉で周囲にわかりやすく出す人なのか
・周囲を無視したり、黙り込む人なのか
・「やればいいんでしょ」といったちょっと荒んだ行動になるのか…等
※実際の診断結果はもっときちんと説明されています…!

『宇宙兄弟』を読んだ時によく感じるのは、皆その辺にいる人みたい!ということ。

その辺にいる人…というと語弊が出てしまうのですが、「いるいる、こういう人!」という感じ。漫画作品ですが、登場人物が皆本当に存在しているように感じるんですよね。

つまり、キャラクターたちの考え方とか生き方以外にも、ちょっとした愚痴とか、変な顔になっちゃうときとか、キャラクター特有の癖とか、食べ方とか
あるある~!
で、すっごく人間臭さを感じ、身近に思ってしまうんです。

親戚とかご近所とかに「こういう人いる…!」と感じる小町さん。

特に『宇宙兄弟』は、トイレとか食べることといった“人間の生活に欠かせない要素”の他に、生きていく上で時々訪れる理不尽をぶつけられた時の怒りや悲しみや何とも言えない脱力感、誰かと比べて自分はダメだと思い悩んでしまう時間、調子のいいこと言っちゃう時、カッコつけたのに直後にカッコ悪くなる時…などなど、“人間”がたくさん描かれています

FFS診断に話を戻しますが、楽しい時や嬉しい時悲しい時怒っている時にどうしてそういう行動をするのか、この診断で出た結果を通してみると、その人の行動にはちゃんと一貫性があるのだそうです。

特にストレス状況下にある時って、自分自身は「キーッ!」となっているので自分自身を客観的に知りにくい(苦笑)。でも、診断を読んでみると確かに「あー!こういう状況になった時に怒る!こういう行動やってる!」と気付きました。データ分析、凄い。

インターネットが発達して身近な誰かの思考に触れる機会も増えましたが、やっぱり直接会ったり行動を共にする時に知る“その人自身”の情報量の多さって全然違いますよね。
どういう言葉をどういう表情でどんな仕草で言うのか。どんな食べ方をするのか。どんな間を取るのか。

その人を知る時に、かなり大事なことだなぁ、と思います。

ただ、誰かが“怒っている”状態の時は(自分と関係ない時は特に)「なんか怖いからちょっと離れとこ」みたいな感じになりがち。
その人がどういう状況下で何に怒っているのかがわからない・知らないままになってしまいます。

それが、データで分析してみて周囲も知ることによって、

・どういう状況の時に
・何が嫌だ、辛いと感じやすく
・どういう態度になりやすいのか

が可視化されるんだな~と思いました。

作家は、それを知っている。

優れた作家はよく人間を観察しており、それらを”知って”おり、漫画や小説で描くことができる。どんな行動をとっても、“そのキャラクター自身の一貫性”ができているのだそうです。
作家の方々はきっと“知っている”けど無意識で、そこが“キャラクターが勝手に走る”になるのでしょうね。

現実に生きている人間をよく観察されて描かれているので、読者もまた普段無意識に感じている“身近な誰か”の一貫性をキャラクターに感じ、「あ、いるわこういう人!」になるんじゃないかな――と思うのでした。

こういうのも、日常生活たまーに“あるある”。

人は、“カッコいい”時間ばかりではないから。

『宇宙兄弟』のキャラは、だから皆魅力的なんだなと感じるエピソードの一つに、“せりかさんの表情を、場面によってわざと可愛くないように描く”というのがありました。

これ聞いた時、「小山先生本当に凄いな!」と驚き、改めて「だからリアルに感じるんだ」と思いました。

せりかさんと言えばメインキャラクターで、特に美人に描かれている人。元々恋愛的なポジションではなくムッタの同期・仕事仲間という位置づけだったとのことで、あえて“ヒロイン”という言葉は使いませんが、メインの女性キャラって基本的にはとにかく美人or可愛く描かれて崩れない崩さないことが多いと思うのです。

なのに、“わざと可愛くなく描く”!

走り込んで疲れたり何か考え込んでいる時に、そんなに可愛い表情の訳がない、とのこと。しかもモーニングでの連載から単行本にする時、「こうじゃない」と修正をしたのだそうです(どこのシーンかわかりますか?^^)。

27巻で実験成功したせりかさんがボロボロと泣くシーンの表情も、何度も何度も試行錯誤されて、ほうれい線をしっかり描いて、あの表情にされたとのこと。

人間、大泣きするとき、顔ぐっしゃぐしゃになりますよね。

特にこのシーンは、父を奪ったALSをこの世から失くしたいと願い、子どもの頃から医師、そして宇宙飛行士となることを志し、心無い誹謗中傷にさらされJAXAに実験中止を求められながらも、自分の立場が悪くなっても意志を貫いて実験を継続し、何度も何度も失敗し、ようやくたどり着いた瞬間。

大泣きにならない訳がなく、あの泣き顔の背景にはとてもたくさんの想いと彼女の人生が詰まっているのです。
だからあのせりかさんの泣き顔はとてもリアルで、思わずもらい泣きをしてしまうんですよね。

そして、ストレス状況下にある時にキャラクターの言動・行動はどのようになるのだろうか――最もそれが感じられるのはケンジ。
溝口と対峙した閉鎖環境空間も勿論、NEEMO訓練でムッタと2人で一緒には月へ行かれないと告げられた後の彼の言動。

NEEMO訓練の二人の溝は16巻をお読みいただきたいのですが、ケンジのことが描かれず何も知らずにあれらのシーンだけ見たら「嫌な奴だな」となってしまいそうですが、私たちはケンジの今までを知り、彼が普段どんな考えや行動を取る人なのかを知ってきました

だから、ケンジがあの時ああいった言葉を言ったり行動したことは「ああ、わかる…」になるんだな、と思います。

他にはムッタをクビにして悪口を言いふらして転職先まで潰した、いや~な上司の間寺が、宇宙飛行士となったムッタに調子よく言葉を並べ、あっさりお願いを聞いてしまうところ、娘のために新田のサインをねだっちゃうところに、憎らしいけど憎めなさを感じたり。

語りだしたらキリがないのですが、あんなに大勢のキャラクターが登場する『宇宙兄弟』で一人一人が印象に残っているのは、そういった“それぞれの人間の行動・言動の一貫性”が小山先生によって見事に描かれているからなのでしょうね。

カッコいい面も情けない面も、喜怒哀楽他複雑な感情も、仕草も、身近に“いそう・いる”な人々だからリアルに映り、魅力的に感じるのだと思います。


そんな一人一人の魅力をお伝えすべく、毎回『宇宙兄弟』を読んでは書いているキャラクター紹介。
宇宙兄弟ファンの皆さんがキャラクター紹介を楽しんでいただき、また原作を読み返したくなるようなものが書けていたらいいなあと思っております。これからもどうぞよろしくお願いします!

キャラクター紹介 | 『宇宙兄弟』公式サイト

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©小山宙哉/講談社
※本連載は『宇宙兄弟』原作画像の掲載許可を得ております。