Tree`s Garden -Riyoko Kisaki-

デザイン・WEB・漫画制作・ゲーム関連・ナレーターなどで活動する個人事業主・樹咲リヨコのサイトです

Tripnote

Tripnote

コラム 宇宙兄弟

番外編『ふかぼり!宇宙兄弟~「完璧なリーダー」は、もういらない。~』

投稿日 2018-05-19 / 最終更新日 2021-01-02

こんにちは、樹咲です。

皆さーーーーん!宇宙兄弟33巻、もう読まれましたか?熱い展開が続き、ドキドキしまくりの33巻でしたね…!
毎話毎話山場のある宇宙兄弟33巻は特に「ここも!」「あそこも!」「ああーこっちも!」と選べない程名シーン&好きなポイントがたくさんありすぎて大変!そして早くも続きが待ち遠しくて仕方ありません!

さて、33巻が発売される少し前に発売された長尾彰さん著『宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。』、皆さんもう読まれましたか?

『宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。 』


著者である長尾さんの文章がとても優しく、宇宙兄弟本編と共にわかりやすく構成されており、あっという間に読めてしまう本なのです。

環境が大きく変わりやすい新年度、そして宇宙兄弟33巻を読んだ後…響いてきたものがより大きい気が致します。

…実はこの本を読んでから感想を書き始めたのですが、話がどんどんフリーランス視点になり、なかなかまとまらず…^□^;。更新が遅くなってしまいすみません。

今回は、この本を読んだら宇宙兄弟33巻がより深いものになった!という視点でお届けしようと思います。

バラバラだったジョーカーズ。

早速ですが、ここまで宇宙兄弟を読まれてきた方ならばジョーカーズというチームがどれだけ噛み合わない個人のバラバラな集まりだったかご存知の事と思います。

無口さと巨体が醸し出す雰囲気で怖がられてしまうアンディ。
強い態度と物言いがバリアのようで、近寄りがたいベティ。
気取った言動で周囲に嫌気をさされ疎まれているカルロ。
ムダに陽気で騒がしく、誰もついていけないフィリップ。

彼らは個性的すぎて誰も一緒に宇宙へ行きたいと思わない——そんなメンバーばかりが集められました。
ここにバトラー室長は化学反応を期待してムッタをメンバーの一人に抜擢し、「どうしようもない彼らをまとめられる」役目はベテラン宇宙飛行士のエディしかいないと、エディをキャプテンに推します。

宇宙飛行士に選ばれるくらいですから一人一人は皆優秀なのですが、“チーム”として一緒にやっていくのは難しい。そんな風に周囲に思われてしまっていた彼ら。
こういうこと、現実でもありますよね。成績優秀だったりスポーツ優秀だからといって同じチームでうまくいくかといったら、実は反発しあってしまってうまくいかなかったりする。

これは2025年宇宙飛行士選抜の閉鎖環境試験で『成績だけなら優秀な人ばかり』のB班にも見られました。皆を率いるリーダータイプであるケンジと溝口。二人の険悪さがそのままB班の険悪さになっていき、それは試験が終わる終盤まで続いていってしまいましたよね。

ジョーカーズのメンバーがそれぞれ皆優秀なことは、月でのミッションや、それを進めることやトラブルが発生した際の対応力からも伺うことが出来ます。

けれどバックアップクルーとして集められたばかりの彼らには、“チームワーク”はまったくありません。

トレーニングでは自分勝手に走り出したり、或いはマイペースに遅かったり、いつまでも動き出さなかったり。誰もチームをまとめようとはせず、牽引型リーダーっぽいやる気を出したムッタは「ムリするな」「似合わない」と言われてしまいます。
ローリーはバックアップクルーがそのまま宇宙に行くメンバーだと思ってよい、と言っていましたが、とても一緒に宇宙へ行く想像ができません。

そこに現れたベテラン宇宙飛行士エディ。彼は、あっという間に空気を変え皆の気持ちを一つの方向にまとめていきました。

でも、その方法は決して「自分についていこい」というやり方ではありませんでした。

目標・課題を明確にすることで、それを達成するためにはどうすれば良いのか?一人一人が考えるきっかけを作ったのです。

リーダー本には、最初にこう書かれています。

——リーダーとは、生き方や働き方のハンドルを自分で握っている人のこと。

リーダーシップは、他者だけでなく自分に対しても発揮されるものなのです

エディは一人一人に考えて行動できるよう促していきました。

長く一緒にいることになるメンバーが互いを知るため、それぞれの目的や考えやバックグラウンドを知れるようコミュニケーションの時間を取ったり。自分も皆と同じように初めて月を目指すのだと、上ではなく同じ位置に立とうとしたり。

決して、自分についてこい!という「強制力」を感じてしまうようなリーダーシップではありませんでしたよね。

徐々にチームになっていったジョーカーズでしたが、月に行くにはまだまだたくさんの困難が待ち受けており、チームが試される出来事がいくつも起こります。
しかし「一人一人が考える」ことでその困難を一つ一つ乗り越えていきます。

人の心を動かすのは、支配ではなく共感

ジョーカーズがアサイン取り消しにされたり、カルロがいなくなったり。

もしもリーダーが「自分がこうしろと言ったものをやれ」と進めてきたチームだったらこれらの大きな困難はどうなったでしょうか。

どうしてもISSを存続させたいムッタの強い想いを皆が知らなければ、アサイン復活のためならISSは廃止にしたっていい。そんなことを考える人もいたかもしれません。
もし支配型のリーダーだったら、ムッタの気持ちは無視で「ISS廃止の署名を集めろ」となっていたのかもしれません。

例えISSの廃止署名を集めて月へ行けることになってもムッタは絶対に喜べませんし、そんな風に心にひっかかった何かがある状態では“チーム”として協力し合うことはできなかったでしょう。

皆が目指している共通課題は何で、それぞれが宇宙飛行士としての目的は何で、どんなバックボーンを持ちそうなったのか。

アンディもフィリップも、そして直接物語では描かれませんが他のメンバーも、ムッタのISS存続への強い想いを知り共感したからこそムッタに協力していったのではないでしょうか。

何かあった時にすぐに反発ではなく、どうしたら良くなるか提案をしたり、自分の気持ちをさらけだして共感を呼ぶムッタ。

月ミッションとシャロン月面天文台にかける強い想いもムッタは仲間や周囲に打ち明け、それを実現するために行動してきましたよね。
彼が抱いている強い想いは、ジョーカーズの仲間だけでなくNASAのスタッフにもJAXAのスタッフにも、たくさんの人に伝わっていきました。

33巻では“リーダー”となるムッタを力強くサポートすると決めた、あるメンバーの言葉、それに関わる他のメンバーとのやりとりも胸が熱くなりましたね。

お互いがお互いを信頼し、自分のやるべき仕事を見つけ、チームや目的のために解決していこうと動いていきます。

それはジョーカーズ内の信頼関係でもあり、NASAとの信頼関係でもあり。
一人一人が自分自身で考え、自分の舵をとり、判断して動く。
チームのため・目的のための最善、最良を選んでいきます。

ムッタやジョーカーズを追いかけてみることで、自分自身への“リーダーシップ”のヒントを知る

33巻のジョーカーズは、“チーム”として最高の形を見せてくれています。
いえ、小山先生のことです。34巻以降でまだまだこれ以上に最高な“チーム”と“リーダーシップ”を見せてくれるかもしれません。

ジョーカーズをずっと追いかけてきた私たち読者にとっては、あのバラバラだった彼らがこんなに素晴らしい“仲間”になっていることが嬉しくて頼もしくて熱くてたまりません。

『宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。』は、ムッタを中心に、それぞれが“リーダーシップ”を持って“最高のチーム”となっていった理由が良くわかる一冊になっています。

「自ら」考え動くこと。目的を明確にし、相手のことを知り、自分の強みや弱みを知り。
時に“リーダー”となったり、時に“フォロワー”となったり。

現実に存在しているような宇宙兄弟のキャラクターたち。
彼らの言動をこのリーダー本と一緒に追いかけながら考え知っていくことで、自分自身の考え方・生き方にも生かしていける部分がたくさん見えてくるのではないでしょうか。

自分自身のハンドルを握り、リーダーシップを持つこと。
自分のためでもあり、誰かのためでもあり、大きな目的のためでもあり。「やらされている」のではなく「自らやっていく」ことで、互いへの信頼が生まれ、未来への小さなドアが一つ一つ開いていくのだと思います。

ムッタが、ジョーカーズのメンバーが、私たちに見せてくれてたように。

©小山宙哉/講談社
※本連載は『宇宙兄弟』原作画像の掲載許可を得ております。